住職エッセイ集 蓮の実通信 No.031「覚醒剤汚染」

住職エッセイ集 蓮の実通信 No.031「覚醒剤汚染」

今回の蓮の実通信のテーマは「真の覚醒と心の救い」です。

  • 高校で覚醒剤検査が行われる現実に衝撃を受ける。
  • 覚醒という言葉の本来の意味と現実の乖離を指摘する。
  • 心の悩みは正しい道によってこそ救われると説く。

現代社会では、若者の問題行動が深刻化しています。ある出来事を通して、覚醒剤という言葉の持つ本来の意味と、その使われ方の違いに気づかされました。本来は「目覚める」ことを意味する言葉が、なぜ人を苦しめるものになってしまったのか。その背景にある人間の弱さと向き合ってみましょう。

「覚醒剤汚染」

先日のこと、近くに住む青年たちが集まって、いろんな 世間話に花を咲かせました。やがて話は、近頃の子供たちの非行問題へと移っていきました。友人の一人がこんなことを言いました。

「先日、ある高校でのことだったけど、全校生徒を抜き打ちで検査したんだそうだ。学校側が、一体どんな検査をやったかわかるかい」彼は、明らかにその場にいた私たち皆を驚かせる答えを用意しているようです。(制服や、ヘアスタイルの規則違反でも調べたのかな、いやそんなことじゃないだろう、今の高校生は避妊具さえ持ち歩いていると聞いたことがある。おそらく、そんな所持品検査でもやったんだろうか)正直、私はそんなことを考えて、友人の言葉を待っていました。またこれ以上に意外な答えは想像できなかったのです。

待ちかねたように彼は答え出しました。「実はそれはね、生徒ひとりひとりの腕をまくらせたんだよ。なぜだかわかるかい。なんと注射の跡を調べたんだ、覚醒剤のね」私は、この答えにただ愕然としました。私たち人間を廃人同様にしてしまうあの恐ろ しい覚醒剤が、もう高校生にまで広がっているというのでしょうか。考えてみれば、中学生や高校生の非行化はどんどんエスカレートしています。しかしさらに驚くべきことは、学校の中でその検査をしなければならないほどに広がっているというひとつの現実です。

思えば、私たちの体をむしばみ、脳をおかしてしまうと言われる恐ろしい薬物に「覚醒剤」などという名がついているのもおかしな話です。覚醒剤の「覚」は「さとる」という意味、「醒」は「さめる」という意味です。すなわち、覚醒とは本来、悩みや迷いの心から「目覚め悟る」という次元の高い言葉なのです。それが、苦しみや悩みから一時的に逃れるための悪魔の薬の名前に使用されるところに、現代の悲劇があるのです。聞けば覚醒剤を投与すると、見違えるほどに頭が冴えわたり、心がスッキリするそうです。しかし、これがたび重なると、いわゆる幻覚症状が現われ、みずからの感情のセーブが効かなくなると言います。これは、心の悩みを、自分の努力でなく、薬物の力でゴマ化そうとする人間の弱さの、当然の報いと言える現象です。

お釈迦さまは、こういった人間のゴマ化しを何よりも戒められています。心の悩みは、正しい教えを信じ行ずるより他に救う道はないと説かれておられます。覚醒剤が、わが国の高校生にまでも汚染し始めているという現実は、お互いの信頼感を失った、現代の悲劇だと、おおいに反省したいものです。

著者(T)