住職エッセイ集 蓮の実通信 No.032「門前町づくり案」

住職エッセイ集 蓮の実通信 No.032「門前町づくり案」

今回の蓮の実通信のテーマは「門前町と信仰の本質」です。

  • 商店街活性化のため寺を利用しようとする提案が持ち上がる。
  • 利益優先で信仰が形骸化する危うさに疑問を抱く。
  • 街の中心には仏の教えがあってこそ意味があると気づく。

地域の活性化は大切な課題ですが、その手段が本来の目的を見失ってしまうこともあります。ある商店街の人々から、お寺を中心にした町づくりの提案を受けたとき、私は大切な問いに直面しました。信仰と利益の関係について、改めて考えてみたいと思います。

「門前町づくり案」

私のあずかるお寺の下の通りは、いわゆるアーケード街(商店街)です。たくさんの商店があります。その商店の親爺さんたちが、ある日お寺にやって来ました。「何の用かな」と思っていると「アーケード街の活性化について話し合いたい」とのこと。地域社会とのお付き合いも大切と考えた私は、喜んで親爺さんたちの意見を聞くことにしました。「近頃は、店の売り上げがめっきり落ちましてな」と代表格の親爺さんが話し始めました。

「住民が減ったせいでしょうかな。大工場が移転してからは、いよいよサッパリですわ。この辺でなんとか手を打たないと」、他の親爺さんたちも「そうだ、そうだ」と肯きました。「でも国際研 修センターや大学の分校ができたからだいぶ良くなったんじゃないんですか」と私が言うと「いや外国の人や学生さんがいくら増えても大したことはありません。売れるのは特価品だけですわ」親爺さんは、大きくかぶりを振り、そこでみんなと相談したんですがね。いっそのこと、お寺さんを中心にして、この街を門前町のイメージで再開発したらどうだろうということになったんですわ」と言ったのです。「そうすれば、お寺さんも有名になるし、私たちも助かる。一石二鳥、いや三鳥にも四鳥にもなるかもしれませんよ」「そうだな」とふと私も思いました。

でもその後の話には、ちょっと着いて行けなかったのです。「とりあえず、お寺の山門の例の仁王さんを売り出しませんか。あの仁王さんは、まれに見る立派なものですよ。お寺さんがたとえば、盗難防止の神さまとか、開運の神さまとして有名になれば、私たちも、仁王センベイとか仁王キーホルダーとか、いろんなキャラクター商品が作れるんですわ。一つ考えてみてくださいよ」こう言って帰って行ったアーケード街の親爺さんたちに、私は曖昧な返事をしてしまいました。

そりゃあ、人々に親しまれるお寺であって欲しいものの、人間の欲に利用される仁王さん丸出しでは、気の毒だと思ったからです。そもそも仁王さんは、仏さまの教えを信じる者を守る神さま、まずその信じる心を起こさないで、願い事だけすれば、それこそ罰あたりになってしま うでしょう。「どうしたもんだろう」そう思いながら、私は、あ・うん二躰の仁王さんを交互に見上げました。するとどちらも私を「嗅うぞ、嗅うぞ、生臭い!」とにらみつ けているように感じ、一瞬身震いしました。

お寺のまわりが、門前町として栄えれば、それは素晴らしいことではあります。でも その中心には、仏さまの教えがなければなりません。そう考え直すと、「それでこそ、坊さんも、街づくりのリーダーになれるゾ」と仁王さんが微笑んだような気がしたのです。

著者(M)