新・仏教説話 第十一話-第二十話

第十二話 間違いを悟る

新・仏教説話 第12話 間違いを悟る

お釈迦さまのお弟子の中には、様々な人たちがいます。これは名もない、あるおじいさんのお弟子の物語です。

そのおじいさんはとても貧しかったので、なんと、お釈迦さまのお弟子になれば、ひもじい思いをしないで済むだろうという安易な理由から、頭を丸めたのです。

ある日のこと、お釈迦さまのお使いで、初めて信者の人の家に出掛けることになりました。そのお家のご先祖さまにお経をあげたあと、お腹一杯のごちそうをいただいた時、そこの奥さんが、「いつもの方のように、お説教をお願いいたします。あなたは年をとられているから、その分きっと修行も積まれたお方でしょう。ぜひ、ありがたいお話をお聞かせください」と目を閉じて、心静かに話の始まるのを待っています。

困ってしまったのはおじいさんです。自分は、毎日の食事のために弟子になっただけですから、仏の教えの勉強らしい勉強は、一度もしたことがありません。どうしたものかと思案のあげく、相手の奥さんが目をつむっているのを幸いに、コソコソと逃げ出してしまったのです。

さてあくる日のこと、その奥さんがお釈迦さまのところを訪ねてきました。その声を聞いたおじいさんは「これは大変、きっと昨日の文句を言いに来たに違いない」と陰に隠れてしまいました。

いくら探しても本人がいないので、仕方なくお釈迦さまがお会いになると、彼女はこう言いました。「私は、昨日ほどありがたい教えを聞いたことはありません。私は昨日のお坊さまの教えで、今までの自分の間違いを悟りました。いつものように目を閉じていると、いくらたってもお話が始まりません。どうしてだろうと考えておりましたら、「お前はいつも話を聞くばかりで、自分で何一つ実行しようとはしない。仏の教えは、自分の身体で読まなければだめだ」と言う声が聞こえてまいりました。ハッとして気がつくと、あのお坊さまの姿がどこにも見当たりません。なんという尊いお方だろうと、今日はそのお礼を申し上げにまいったのでございます。お会いできなくてとても残念ですが、よろしくお伝えください」

これを聞いたお釈迦さまは、ニッコリ微笑まれ「そなたの悟った真理は、また他の者をも、よく救うであろう」とお答えになりました。

物陰からこの一部始終を見ていたおじいさんは、涙を流して自分のいやしい心を反省しました。

そして、それからは、命がけで仏さまの教えを学び、やがて立派なお弟子の一人になったということです。

(J・N)

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