新・仏教説話 第一話-第十話

第九話 あの世の博覧会

新・仏教説話 第9話 あの世の博覧会

地獄、極楽ってどんなとこだろうと思ったことはありませんか。

そこで今日は、『あの世の博覧会』のお話をしましょう。ある所に、たいそう物好きな男が居て、生きている内に地獄、極楽を一度見ておきたいと、ちょうどその時開かれていた、「あの世の博覧会」に出掛けました。

まずは、嫌な方からというので、地獄のパビリオンの方を覗いて見たのです。きっと、血の池地獄や針の山があって、さぞや青鬼や赤鬼が、亡者たちをいじめていることだろうと思って、こわごわと中を覗いてみると、中には大きなテーブルが在って、ごちそうが山のように並べてあります。「おや、聞くと見るでは大違い、なかなかいいところじゃないか」と思っていると、テーブルの周りにはたくさんの人が群がっています。その人たちは、めいめい長いサジを持っていますが、そのサジは手にしっかりと縛り付けられています。サジが長いのはテーブルの真ん中に置かれているごちそうをすくうためです。

ところがそのサジは、ごちそうを救うことはできても、口に運ぼうとすると長すぎて、途中でポロッとこぼれてしまいます。何度繰返しても、同じことです。「ごちそうを眼の前にしながら、食べることができないなんて、こんな辛い、残酷なことはない。ここは本当に地獄だ。くわばら、くわばら」と、この男は、逃げ出すようにして、地獄のパビリオンから出ました。

そこで、今度は極楽の方に入ってみたのです。きっと美しい音楽が流れ、天女が舞う夢のようなところだろうと思って覗いてみると、なんと、地獄とまったく同じところ、ただただテーブルの上にごちそうがあるだけです。おまけに極楽の人たちの手のサジも同じような長いサジです。がっかりして帰ろうかと思っていると、あることが目に付きました。何と極楽の人たちは、サジにすくったごちそうを、自分の口に運ぶのはなく、サジの届く席の人の口に入れてあげているのです。お互い助け合い、おいしそうに食べ合っています。

そこでこの男は、ハタと気が付きました。「なるほど、地獄も極楽も一緒なんだ。ただ違うのは、そこに住んでいる人たちの心だったんだ!」

仏さまは私たちに、「地獄・極楽は心の中に在るのだ」と説かれます。お互い、自分の事しか考えない、我利我利亡者にはなりたくないものですね。

(J・N)

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