新・仏教説話 第一話-第十話

第七話 蓮華の心

新・仏教説話 第7話 蓮華の心

お寺のご宝前には、金色の蓮華の華が飾ってあります。

先日、おばあちゃんに連れられて、お詣りに来た女の子が「あれ、何の花?」と指さしました。「蓮華だよ」と答えるおばあちゃんに「どうして飾ってあるの?」と、また質問します。そこでおばあちゃんは「それは、お尚さんに聞きなさい」と、私におハチをまわして来ました。

小さな子に、どうやって仏さまと蓮華の関係を説明するか。これは難題です。

「きみ、お花好き?」まずは子供の心を聞くことです。「うん、大好き」「何が一番好き?」「バラの花でしょう。それから、ランの花、 シクラメン・・・・・・」たくさんあげる花の中に蓮華の名前は出てきません。「蓮の華は?」と聞くと「わかんない」と答えます。「見たことないの?」と聞くと「あるよ。あるけど、汚ないとこに咲いてるもん」と答えます。 「なるほど、じゃあきらいなの?」とたずねると 「うん」とうなづきます。「でもね、汚ないとこに咲くから、仏さまの花なんだよ」言うと、今度はポカンとした顔をしました。

「きみは、お花を見ると、どんな気持ちになるかい」「きれいだなって思う」「いやなことがあっても忘れるよね。悲しいことがあってもなぐさめられるよね」と聞くと今度は、「うん」と同調してくれました。「蓮の華はね、わざと汚ないところに咲いているんだよ」というと「どうして」と乗ってきました。「それはね、汚いところをきれいにしてあげたいって気持を持っているから」「お花にも心があるの?」「そうだよ、どんなものにも、心はあるんだよ」「誰がそれ見つけたの?」「仏さまだよ。仏さまはね、どんな美しさよりも、まわりを美しくする心が一番大切だと思ったんだよ。だから蓮の花は、とってもすばらしい花だと感じたんだね」そう話してあげると、「あっ、だから仏さまは、蓮の葉っぱの上にすわってるんだ」と、私の話の先を読んでしまいました。

思いがけない反応に、私は、この女の子の心の中にも今、小さな華が咲いたことを知ったのです。

仏さまは、一切の衆生に“仏性”があると説かれます。この女の子も素直であるが故に、あの蓮の華が、ポンとはじけるように、心に華を咲かせたのでしょうか。

おばあちゃんと二人で合わせる可愛い合掌の姿が、お堂の中で、とっても明るく輝いたのでした。

(M・N)

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