新・仏教説話 第一話-第十話

第五話 精いっぱい咲く花

新・仏教説話 第5話 精いっぱい咲く花

後輩が先輩を立てて一目置いているのは、端から見てもほほえましい光景です。でも、それをいいことに、先輩の方がそっくり返っている姿は、余りみっともいいものではありません。

昔、お釈迦さまのお弟子の中に、お釈迦さまと同じ年の同じ日に生まれた男がいました。彼の名前は、チャンダカ。お釈迦さまが、お育ちになったお城を捨てて出家なさった時、そのお伴をして白馬の手綱を握った男です。だから、お釈迦さまがお悟りを開かれて後、故郷にお帰りになった時には、誰よりも感激して、まっ先にお弟子になりました。

ところが、日が経つにつれ、彼の心の中につまらぬ自惚れが生まれて来たのです。有り難いご縁と思うだけなら良かったのですが、あたりかまわず自慢をし始めました。そしてついには、二大弟子とも言われる舎利弗(しゃりほつ)や目連(もくれん)にも、「君たちは、お釈迦さまにたいそう目をかけられているようだが、お釈迦さまが出家なさった時の最初の立ち会い人は、この私なんだからね」と、先輩面をするようになってしまったのです。

これをお聞きになったお釈迦さまは、困ったことだとお思いになられたのでしょう。子供の頃から、お城の中で一緒に暮らした仲です。なんとかしてチャンダカのこの悪い癖を直してやりたいと、こう諭されました。「チャンダカよ、そなたが私を慕ってくれる気持ちは嬉しい。しかし、それよりも嬉しいのは、そなたが、みんなから慕われることなんだよ」

でも悲しいかな、彼には、お釈迦さまのこの言葉の本当の意味が、分からなかったのです。それどころかますます自分のことを吹聴するようになってしまいました。そこで思いあまったお釈迦さまは、「チャンダカには好きなだけ、しゃべらせるがよい。ただし、そなたたちは、それにうなずくことも、反対することもしてはならない」とお弟子たちにおっしゃいました。

一方、チャンダカは、自慢したくても、話せるのはたった二つの過去の出来事しかありません。いつの間にか、彼の話を聞いてくれる人は、一人もいなくなってしまいました。

そうなったチャンダカに、お釈迦さまは静かにおっしゃいました。

「チャンダカよ、他人より目立とうとすれば、人は一人ぼっちになってしまう。花は自らを誇るために咲くのではない。ただ己が本命を尽くすために咲くのである」と。

このお諭しを聞いたチャンダカは、やっと自分の間違いが分かりました。

そして、やがては先輩として、本当に後輩のお弟子さんたちから慕われるような人になったと語られているのです。

(J・N)

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