交流の広場「微笑苑」 011-020

第十二話 坊さん臭い

交流の広場「微笑苑」 No.012 坊さん臭い

「味噌の味噌臭いのは安い味噌」という言葉があります。
「どういう意味だ?」と尋ねたら、

「坊さんの坊さん臭いのは、つまらない坊さんということだよ」という答えが返って来ました。

思わずドキッとすると、相手は「臭いと、とかく鼻につくからね」といってニヤッと笑いました。

相手というのは、小学校時代からの友達です。
「おまえが近頃えらそうな事ばかり言うから、ちょっとからかってみたんだよ。釈迦に説法だったかな」と言う彼に、「いや、その通りかもしれないな」と私はお礼を言いました。

お寺の住職として生活していると、まわりの人は「和尚さん」と持ち上げてはくれても、なかなかこんな批判はしてくれません。
それでいい気になっていると、思わぬ失敗をしてしまうものです。
すると友達が言いました。

「実はな、お前にこんな 事を言ったのは、俺自身、今仕事に行きづまりを感じているからだよ。そしたら、ある本で、『褒められたい、認められたい、そう思い始めたら、仕事にどこか嘘が出る』という言葉を見つけてな。ナルホドと考えさせられたんだ」

「いい言葉だね。なんて本だい」と尋ねると、「永六輔の『職人』という本だよ。お前も読んでみたら」と勧めてくれました。

永さんは、ご存知のように東京の浅草のお寺の次男坊です。
だからお父さんはお坊さん。
そのお父さんがよく言っていたという言葉が、「私はたかが坊主です。士農工商のどの身分にも入っていないのですから」というものだったとか。

「今考えれば、親爺は心底、恥ずかしがっていました。坊さんであることが恥ずかしいのではなく、坊さんとして、まわりから立てまつられるのが恥ずかしかったようです」と思い出を語っています。

ひょっとしたら、それが味噌臭くない味噌、いえ坊さん臭くない坊さんになる秘訣なのかもしれません。

『職人』という本の中でも永さんは、「職人というのは職業ではなくて、その人の『生き方』だと思っている」と書いています。
これは、「坊さんというのは職業ではなく、坊さんとしての生き方を言う」と読み直すこともできます。
だからでしょうか、永さんは、自分は職業として坊さんではないけど、坊さんの意識を持っていると語ります。

若い頃は手を合わせるのが照れ臭かったのに、今は自然と合掌することが多くなったと言う永さん。
その永さんに、昔、お父さんが言ったそうです。
「お前の作った歌は『上を向いて歩こう』も、『こんにちは赤ちゃん』もみんなお経だな」と。
誰に認められるよりも、どんな褒める言葉よりも、嬉しかったのではないでしょうか。

(N)

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