交流の広場「微笑苑」 011-020

第十三話 法事のお勧めは中華料理

交流の広場「微笑苑」 No.013 法事のお勧めは中華料理

法事の席の料理と言えば、どこも似たり寄ったり。
施主には申し訳ないが、どんな料理も、さほど食欲はそそらない。

そんな事を思っていたら「和尚さん、来月のうちの三回忌、料理はどんなものにしたらいいでしょう」との相談を受けた。
こんな相談は、実に稀である。
稀だからこそ、逃す手はない。

「去年の一周忌は会席膳だったよね。それなら、いっその事、中華にしたら」

相手は、びっくりしたような顔をした。
亡くなったお婆ちゃんが、やかましい人だっただけに、それではお客に失礼になるのではという不安が走ったようだった。
「一人ひとりのお膳じゃなくていいんですか」

当然の事ながら、そんな質問が返ってきた。
「何人おまいりに来るか分からんのだろう」
うなづく相手に、「それなら中華の方が融通がつくよ。取り皿と箸を増やすだけでいいんだから」と自分の考えをゴリ押しした。

それだけに法事の当日、この作戦が吉と出るか否か、施主以上に私の方が 気を揉んでしまった。
中華は、和食と違い、あたたかくなければ、その魅力は半減してしまう。
紹介した店が、時間通りに届けてくれればいいがと気が気でならなかった。
だから日頃なら、平気で遅刻する私も、この日ばかりは、時間励行した。

無事に供養も終わり、料理も、ほどよく着いた。
後は配膳を待つばかりと思ったら、なんと取り皿と箸を忘れて来たと言うではないか。

それからがテンヤワンヤ。
家中の皿と箸を持ち出す破目になったから、作戦参謀としては立場がない。
それでも一応の用意ができたところで、施主の方から、「なにもお口に合う物はありませんが」と紋切り型の挨拶がなされた。

日本人は、どうして、いつもこうへり下って心にもないことを言うのだろう。
それに、本当に口に合わなければ、こちらの面目も丸つぶれになる。

そこで、いちばん上座に座らされた私は、一言ご挨拶申し上げることにした。

「本日のメニューは、不肖私の提案でございます。法事の席に、こんな料理をとお思いの方もあるやもしれませんが、供養の後は、美味しい物を食うようにとのアイデアです。それでは頂きましょう。乾杯…」と言いかけて、この「乾杯」という言葉を訂正した。

「先日、いい話を聞きました。こんな席では、乾杯という言葉は、感情的にどうもピッタリしないと言うのです。それでは、どう言えばいいのか。その人が提言しました。

なくなった故人に〈 献盃 〉というのはどうだろうかと。私たちもこれに習って、献盃とまいりたいと思います。献盃」

どうやらこれで、坊さんとしての面目も立った。
同時に、席も立った。
なんと言っても日曜は忙しい。次の家の法事が待っていたからだ。

だから、「和尚さんのアイデア勝ちでしたね」そんなお礼の電話をもらったのは、翌日のことだったのである。

(N・N)

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