ある日、お釈迦さまが、マガダの国でお弟子さんたちのために〝法座〞を開かれていた時です。
その年は、ちょうど飢饉の年で、そのまわりには多くの乞食の人たちも集まっていました。そこへ、ラビタという男が荷車に大きな壺を積んで通りかかりました。その壺には、おいしいハチミツがたっぷり入っていたのです。彼は、樹の根元に坐り、法を説かれているお釈迦さまの尊いお姿を見ると、とても感激し、ご供養を申し出ました。喜んでこれを受けられたお釈迦さまは、「ラビタよ、そなたの志は尊い。その布施の心は、そなたの菩提の種を育むであろう」こう褒められたラビタは有頂天です。こうなったら、壺の中のハチミツ全部をお釈迦さまに差し上げてもちっとも惜しくないと思いました。
するとお釈迦さまが「もし、そなたにゆとりがあるならば、この弟子たちにもハチミツを供養してはくれないだろうか」と語りかけられました。その時、彼はふと「お釈迦さまにあげるのならともかく、お弟子たちは、そんなに偉くないのに、もったいない」と思ったのです。そこで前よりも少なめに、お弟子たちの分としてご供養しました。
喜ばれたお釈迦さまは「その志も尊い、だがラビタよ、許されるならば、ここにはお腹を空かした多くの貧しい者たちもいる。彼らのためにも、今一度の供養を頼めないだろうか」と仰言いました。「こんなやつらのために、オレが汗水流して集めたハチミツをやるなんて」そう思ったものの、お釈迦さまのおおせとあれば仕方ありません。そこで彼は、申しわけ程度に乞食たちへの供養をしました。最初は全部のハチミツを供養しても惜しくないと思っていた彼の心は、逆に残りの量の方が気になり始めたのです。
「ラビタよ、そなたの布施に心から感謝しよう。そのお礼として、そなたの未来を壺の中に映し出してあげよう」そう語られたお釈迦さまのすすめで、彼は心をはずませて壺の中をのぞいてみました。すると、なんということでしょう。残りのハチミツが、みんな油の炎となって彼の体を焼きつくそうとしている姿が見えるではありませんか。びっくりしたラビタは、腰を抜かさんばかりに驚いて、その訳をお釈迦さまに尋ねてみました。するとお釈迦さまは
と悟されたのです。
ラビタが己を恥じ、すっかり反省したのは言うまでもありません。