真心の尊さを説くのに〈貧者の一灯、長者の万灯〉という諺(ことわざ)がよく使われます。
この言葉の由来は、仏さまに捧げられた一つの小さな灯明の物語に始まります。
ある日、マガダの国でお釈迦さまの法座が開かれた時のことです。
遇(あ) いがたき仏との縁を歓(よろこ)んだ一人の女性が、何かご供養したいと願いました。
ところが貧しい彼女には、一文(いちもん) のお金もありません。
そこで自らの髪を切り、それを売ったお金で、わずかばかりの油を求め、法座を照らす明(あ) かりとしたのです。
仏の御前(みまえ)には、多くの人々に供えられた数えきれないほどの灯明が並んでいます。
それらのどれよりも、みすぼらしく小さな彼女の灯明。
しかしその時、にわかに巻き起こった風が次(つぎ)々に灯明を吹き消していったのです。
あたり一面が真っ暗闇になり、人々は怖れおののきました。
その中にあって、たった一つ、この貧女(ひんにょ)の捧げた灯明だけが、いつまでも光り輝いていたというのです。
という仏さまの声が聞こえてくる気がしませんか。