交流の広場 微笑苑 第五話「女房の“寺庭だより”」
今回の微笑苑のテーマは「夫を支える妻の力」です。
- 寺庭だよりを通して婦人会を活性化させた住職の妻の働き。
- 女性同士の連帯感が生まれ、寺を支える新たな力となった出来事。
- 「生命があるだけ丸もうけ」の言葉に支えられた住職自身の気づき。
住職の妻が始めた〈寺庭だより〉は、檀家の婦人たちの心をつなぐ温かな便りとなりました。やがてその言葉は寺を支える大きな力となり、思いがけない出来事に直面した住職自身の心をも支えることになります。
第五話「女房の“寺庭だより”」
女房が〈寺庭だより〉を出しはじめて、早二年になる。ハガキに、その月々に思ったことを書き、コピーをして、檀家の婦人会員に送っているが、なかなか好評だ。
毎月の掃除や、婦人会の行事にどうすれば出席者が増えるかと考え、思いついたそうだが、目に見えてその効果はあった。この一年でその数は倍になったのである。それどころか、出席はできないけれど、ハガキだけは毎月欲しいという波及効果まで現われ、ご本人は大いに満足しているようだった。
しかしその頃になると、今度は書く事に行きづまる。「ああ、余計な事始めなきゃよかった」そうボヤく女房に「俺が代わってやろうか」と言うと「みんな、私の便りを待っているのよ、あんたの文章を読みたいわけじゃないわ」とつっぱった。ナルホド、そうかもしれない。これは 住職の便りではないところがいいのだろう。
貰った方も、宛名が主人ではなく、夫人であるのが嬉しいのかもしれない。女同士の連帯感が生まれようとしているのなら、こちらの入りこむ余地はなさそうだ。そう思っていたら、檀家に出かけた時、そこの奥さんから「さすが、お寺の奥さんですね」と言われた。「私、断然ファンになりました。もう、和尚さんはどうでもいいです。これからはお寺も女の時代、私たちも頑張りますよ」こんな発言が出て来ればシメタものである。女房のことをほめられたのも嬉しいが、みんなをヤル気にさせているのが、なんとも頼もしい。
住職といっても、寺にじっとしておれないのが、現実の住職。それならば、寺に尻をどっしりと構え、守っていくのは、むしろ住職の妻の役目だと言った方が正しいのかもしれない。そんな女房が今年の春出した〈寺庭だより〉には、こんな息子との対話がネタになっていた。
「夕方、息子が学校から帰って来て『お親爺さんは?』と尋ねたので『ちょっと人生相談に出て行ったよ』というと『そんなの俺に聞けば、すぐ答えてやるのに』と言いました。そこで『あんたなら何て答えるの?』と聞いたら『人生、悩んだって始まらん。生命があるだけ丸もうけ』とすました顔。思わず、こちらがドキリ。丸もうけの生命を大切に そんな気持で、お彼岸を迎えましょう」
これを読んだ総代の爺さんから「奥さん、これ、あんたが本当に書いたのか?息子さん、こんな事、本当に言ったのか?」と電話があったりで、大ヒット。こうなると 「大変だけどやり甲斐もあるわね」と本人もハッスルした。
そして一ヶ月後、私が交通事故に遭うというお寺にとっては大事件が突発した。以来、お盆も住職不在というピンチが続いた。私は、今や人生相談の解答者どころか、質問者という気分にまで落ち込んでしまっている。
そんな時、「生命があるだけ丸もうけ」と言うあの母子の対話が、頭に浮かんだ。ベッドの上では素直になる他、道はないのかもしれない。
対談のお相手(J)
◎交流の広場『微笑苑』は寺の友社の社長が住職にインタビューをした小話集です



