住職エッセイ集 蓮の実通信 No.024「写仏 百万枚」

住職エッセイ集 蓮の実通信 No.024「写仏 百万枚」

今回の蓮の実通信のテーマは「写仏に込めた祈りの力」です。

  • 病に苦しむ女性が地蔵の声に従い写仏を始める。
  • 疑いや苦しみを越え描き続ける中で生きる力を得る。
  • 祈りと継続が人生を支え、命をつなぐ力となる。

写経や写仏は、仏さまの教えや姿に向き合う静かな修行です。その一筆一筆には、祈りや願いが込められています。ある女性は、絶望の中で写仏に出会い、人生を大きく変えていきました。その歩みから、祈りと継続の力について考えてみましょう。

「写仏 百万枚」

お経を写して書くのは写経、仏さまのお姿を写して描くのを写仏と言います。最近では、この写仏も静かなブームを呼んでいるそうです。ところである年のお正月、ある和尚さんのところへ、お地蔵さまの絵が描かれた年賀状が舞い込みました。「よく描いてあるなあ」と感心して、その絵をながめていた和尚さんが、さらによく見ると、そこには“二百五十万三千八百八十二”という番号が書かれてあるのに気づいたのです。

いったい、どうしてそんな番号が書いてあったのでしょう。年賀状の差出し人は、八十三歳になるお婆さん。そのお婆さんが、まだうら若い娘さんの時のことです。「結核 性カリエス」という大変な病気に罹(かか)りました。あらゆる治療をしてみましたが、回復の見込みはありません。もちろん神仏(かみほとけ)にも手を合わせました。でも利益はありません。いっそ死のうかと思っていたある晩のこと「私の姿を百万枚写しなさい」という声が彼女の耳に聞こえて来ました。それは、彼女が信仰していたお地蔵さまの声だったのです。最初は、耳を疑いました。錯覚にしか過ぎないと思いました。でもそれで救われるならと、自分の瞼(まぶた)に浮かぶお地蔵さまの姿を写し始めたのです。

最初のうちは一生懸命でした。それが五十枚、百枚になる頃には、再び疑いの念が生じてきました。飽きが来たと言ってもいいかもしれません。しかしここで止めては、元の木阿彌(もくあみ)、それに他に助かる道もないし。そう思って自分を励まし、描き続けるうちに、お婆さんは、自分がまだ死んでいないことに気づいたのです。「これがお地蔵さまの教えてくださったご利益かもしれない。こうなれば、死ぬまで描き続けよう」そう思った彼女は、百万枚という気の遠くなるような目標に挑戦する勇気が湧いて来ました。

描けば描くほど、絵も上手になって来ます。その喜び、その嬉しさ、いつの間にか、自分が絵を描くというより、お地蔵さまが、向こうの方から姿をあらわしてくださるという気持ちにまでなったのです。

そして三十余年、お婆さんは、ついに念願の百万枚のお地蔵さまを描き上げました。「お医者さまに、再起不能と宣言された時から、それまでの私は死んでしまったのかもしれません。でも、それがこうして今も生命(いのち)あるのは、本当にお地蔵さまのお蔭です。」そう語るお婆さんは、その後も二百万、三百万枚と写仏をし、お地蔵さまと一緒に、人生の旅を続けているのです。

著者(M.N)