仏教エッセイ集 新・仏教説話 第八話「二つ地蔵」

仏教エッセイ集 新・仏教説話 第八話「二つ地蔵」

今回の新・仏教説話のテーマは
「願いをかなえる前に、願いを見つめ直すということ」
です。

願いがかなうことだけを求め続けると心はさらに欲に縛られてしまうが、願いを手放すことでこそ、苦しみから解き放たれる道が開けるのだと教えてくれます。

第八話「二つ地蔵」

不況になると、お寺やお宮にお詣りをする人が多くなると言われます。きっと皆、いろんな願いごとを持ってお詣りしているのでしょう。

ところで昔話にこんな話があります。ある村外れに、二体のお地蔵さんが立っていました。

一方のお地蔵さんは〝願満地蔵〞と言って、何でも願いごとを叶えてくれるお地蔵さん。もう一方は、〝願断ち地蔵〞と呼ばれるお地蔵さんでした。当然のことながら、願満地蔵にはたくさんのお供えがあり、村人たちは毎日のようにこのお地蔵さんにいろんなお願いをしました。でも、願断ち地蔵の方は哀れなもの、誰一人お詣りする人のいないありさまでした。

願満地蔵のご利益は霊験あらたかとみえて、人々は次々に願いが叶い、豊かな暮らしをするようになったのです。

ところが人間の欲には限りがありません。お詣りする人たちは、自分こそが村一番の金持ちになりたいと願うようになりました。そこで、秘かに自分と仲の悪い人に不幸な出来事が起こらないかと期待をしたのです。大勢の村人に、そんな卑しい心が起こりました。すると願満地蔵は、この心に感応して、すぐにその霊験をあらわしてしまったのです。

村人皆が他人の不幸を願っていたので、いつの間にか、その願いどおり、村全体に悲しいできごとが次々に起り、豊かだった村は、たちまち貧しい村に落ち込んでしまいました。「どうして、こんな事になったんだろう」と、お地蔵さんの前に集まった人々はグチを言い合い、こんな事なら、この願満地蔵を川の底に沈めようと話し合いました。

その時、村一番のうすのろと言われている男が言いました。「おらの爺さまから聞いた話しだが、困った時には願断ち地蔵さまがご利益があると言うことだ。苦しい時は、願いごとを全部捨てると楽になるちゅう話だ。そんな悩みをあの地蔵さまは叶えてくださると、おら聞いただ」

それを聞いた皆は、その時、はじめて、この村外れに二つのお地蔵さまが立っている理由を知ったのです。

願いごとを叶えてくださるのもお地蔵さまなら、私たちの欲望の炎、もがき苦しむ心を鎮めてくださるのも、またお地蔵さまだったのです。

童唄にあるように、いつもニコニコ見守ってくださっているお地蔵さまに、恥ずかしくないような心を持って、お互い暮らしたいものですね。

著者(M)

このお話でわかること

  • 欲望には限りがなく、他人と比べる心が不幸を生むこと。
  • 願いがかなうことと、心が満たされることは別であること。
  • ときには願いを手放す勇気が、苦しみを静める力になること。

願いを重ねるよりも、心を整えるとき、私たちは本当の安らぎに近づいていくのです。