仏教エッセイ集 新・仏教説話 第三話「別れのつらさ」
今回の新・仏教説話のテーマは
「別れの悲しみを越えて、教えと共に生きるということ」
です。
お釈迦さまは、愛する者との別れは避けられないと説きながらも、その教えを心に受け止め実践するならば、師は永遠に生き続けるのだと諭されました。
第三話「別れのつらさ」
私が、未だお坊さんに成りたての頃の話です。 近くに初老のご夫婦が住んでいました。 その御主人が突然亡くなった時、奥さんが私に向ってこう言われました。
「主人は、私が杖とも柱とも頼む唯一人の人でした。 私の人生は、主人抜きにしては考えられません、この先もう生きる力が無くなりました」と。 これを聞いた若い私は、どう言って慰めて良いのか分かりませんでした。 その帰り道、私はお釈迦様の話を思い出していました。
インドはクシナガラに近い沙羅双樹の元に、八十歳の身を横たえられたお釈迦様は、弟子たちに向って、この世を去る日が近づいたことを告げられたのです。 弟子たちは非常に悲しみましたが、中でも十大弟子の一人である阿難は、お釈迦様のお傍に寄って、泣き崩れておりました。
この有り様を見たお釈迦様は、次の様に諭されました。 「止めよ、阿難。悲しむな、嘆くでない。 私は以前から、このように説いておったではないか。 人は愛するものや、好きなものからも、必ず別れなければならないのだ。 いかに私と言えども、この世に存在し続けるというのはできないことなのだよ。」
しかし、阿難の悲しみは治まりません。 「世尊よ、これまで私たちは、あなたを心の支えとして、あなただけを頼りに生きて来たのです。 あなたが居られなくなったなら、私たちは何を頼りに生きて行けば良いのでしょうか。 どうか私たちをお見捨てにならないでください。」
お釈迦様はさらに諭されます。 「お前たちは私の死後、も早我らの師はこの世に居ないと思うだろう。 しかし、私の体が滅して後、私が説いた教えを私自身として受け止めた時、私は永遠にお前たちの中に生き続けるのだよ。」 そして、最後にこう遺言をされたのです。 「さあ修行者たちよ、お前たちに告げよう。 形あるものは全て滅するのだ、怠ることなく努め励むが善い」
人生は、出会いや別れの繰り返しです。
私たちが愛する人との別れの辛さに挫けてしまったなら、亡き人はきっと悲しむに違いありません。 それよりも、その人との思い出を大切に、その人が願っていたように生きることこそ、残された者の歩む道だと言えましょう。
著者(T)
このお話でわかること
- 愛する人との別れは、誰にも避けられない人生の真実であること。
- 大切な人は姿がなくなっても、その教えや思いは生き続けること。
- 悲しみに沈むのではなく、故人の願いを胸に歩むことが、残された者の道であること。
別れは終わりではなく、その人の教えや願いを受け継いで生きる新たな歩みの始まりなのです。



