仏教エッセイ集 新・仏教説話 第一話「一つかみの宝」

仏教エッセイ集 新・仏教説話 第一話「一つかみの宝」

今回の新・仏教説話のテーマは
「欲と不安の正体/真の宝とは何か」
です。

人は安心を求めて外の宝を集めますが、不安は尽きず、真の宝は所有ではなく、今をどう生きるかという心のあり方にあることを、この話は示しています。

第一話「一つかみの宝」

その昔、インドにたいそう慈悲深い王さまがいました。 ある時、王さまは、“布施行”を思いたち、宝物を山と積んで、貧しい人たちに、一つかみずつ与えることにしました。 これを聞いた人々は、お城に押しかけ、それぞれに王さまから宝をもらっては、喜んで帰って行きました。

あるときそこに、一人の旅の僧がやって来ました。 「私も小さな家を建てたいと思って、宝をいただきにまいりました」 「そうか、遠慮せずに一つかみお取りなさい」 そう王さまにすすめられて、喜んで宝を手にした僧は、なんと思ったのか、宝を元に戻しました。

不思議そうな顔をする王さまに「申しかねますが、この一つかみの宝では家を建てるのがやっとで、結婚することまではできません。 いっそのこと、いただかない方が良いと思います」と言いました。黙って聞いていた王さまは「では、もう二つかみお取りなさい」と言いました。 彼は喜んで取りましたが、またもや元に戻しました。 王さまは驚いて「まだ足らぬのか、では特別にもう七つかみ差し上げよう」と言うと、彼は感謝して宝をつかみかけましたが、またまた宝物を、元に戻してしまいました。 さすがに王さまもイライラして「まだ足らないのですか」と言いました。

すると僧は「はい、考えてみますと、家を建て嫁をもらい、田畑を買い、ぜいたくをしても、もしたとえば病気でもしたらどうなるでしょう。 そんな時にも安心できる財産がないと不安になります。 だからいっそ頂かない方が良いと思うのです」と言ったのです。 これを聞いた王さまは、ついに意地になって「私も一国の王、思いきって、この宝をそなたに全部差し上げよう。 それなら不安はないであろう」と言いました。

旅の僧は、じっと宝の山をながめていましたが、やがてくるりと向きを変えると、王さまに一礼をしてその場を去ろうとします。

「宝はいらないのか!」と叫ぶ王さまの声に振り返った僧は、「私は思ったのです。 どんなにたくさんの宝物をいただいても、心の不安を消すことはできません。 欲を起こせば起こすほど苦しみは増すばかりです。 それならば私は、今の修行の生活のままで充分です。 人生は無常、先のことばかり思いわずらうより、今を精一杯生きることが大切だと気づきました。

私にとって、このたった一つかみの真理こそが、王さま、あなたからいただいた何にも勝る宝です。

王さま、あなたの人生にも、幸いと安らぎがおとずれますように」 こう言って静かに合掌をし、お城を去りました。

私たちも、外の宝ばかりに心を奪われず、今日の生命という、一つかみの宝を大切に生きていかなければならないでしょう。

著者(W)

このお話でわかること

  • 人は財産や安心を外に求めるほど、かえって不安を増やしてしまう。
  • どれほど多くを得ても、心の渇きは欲を起こす限り満たされない。
  • 今ある命と生き方に気づいたとき、真の安らぎが生まれる。

どれほど宝を積んでも、不安は消えない。今の命に気づいたとき、心は満ちる。ということですね。