住職エッセイ集 蓮の実通信 No.012 「三つの福田」
今回の蓮の実通信のテーマは「心をつなぐ贈り物の価値」です。
- 物を大切にすることは心を大切にすることだと説く導入。
- 施設で育った青年が感謝を込めて自転車を贈るまでの成長の物語。
- 三福田の教えに照らし、敬いと恩返しの心が育まれる様子を示す。
物があふれ、お金で何でも手に入る時代になりました。しかし、その一方で、物に込められた心の重みを見失いがちではないでしょうか。思い出や感謝が宿る品は、決してお金では買えません。ある青年の贈り物に込められた心から、その大切さを見つめてみましょう。
「三つの福田」
物を大切にすることは、心を大切にすることです。お金さえ出せば、何でも手に入る現代ですが、その分、心が粗末にあつかわれている時代になったとは思いませんか。でも、懐かしい思い出が秘められた品物は、決してお金では買えません。
ある日のことです。円福寺というお寺の奥さんに、一台の自転車が届けられました。それは、そのお寺にある施設を巣立った、一人の青年から送られてきたものでした。「お母さん、自転車を送りますから乗ってください。お金で送ってもよいけれど、お母さんは自分のものを買わないから、品物で送ります」そう手紙を寄こした青年は、赤ん坊の時、この寺の施設で引き取った子供でした。
実は、この子は、小学校に通う頃、和尚さんのお金を盗んで、おもちゃのカメラを二十台も買い、クラス中に配ったことがありました。「どうして、そんなことをしたんだ」と和尚さんが叱ると「『親なし施設の子』と言われたくなかったんだーっ!」と泣き出しました。
その晩、奥さんは、黙ってこの子を抱いて寝ました。「お母さん、ぼくは今まで、和尚さんや、お母さんに有難いと思ったことがありませんでした。だって、ぼくのような運命の子供は、国から費用が出て育てられるのがあたりまえ、和尚さんやお母さんは、ぼくたちを育てるのが仕事なんだと思っていましたから。でも、この間、ひさしぶりにお寺に帰った時、お母さんは、相変わらず、もんぺ姿で働いていましたね」手紙の中でそう語る青年は、社会に出てみて、はじめて奥さんの愛情の深さを知ったのです。その感謝が、一台の自転車となりました。
奥さんは、それを眺めたり、さすったりしながら、手を合わせ「私は幸せ者ですね」と和尚さんに語りました。仏さまの教えの中に、幸せを生み出す"三つの田ん圃"という意味で<三福田>という言葉があります。
一つ目は仏・法・僧の三宝を敬う<敬田(きょうでん)>。
二つ目は、父母の恩に報いる<恩田(おんでん)>。
三つ目は、貧しい人々の悲しさを哀れみ、施す<悲田(ひでん)>です。
この三つの田ん圃を耕やし、功徳の種まきをすることが、幸せに実を穂らせることになるのだと、仏さまは説かれます。円福寺さんの福祉施設が、この「悲田」の教えに基づいているのは言うまでもありません。「ぼくが"お母さん"と呼べる人は、お寺のお母さんしかいません。今頃になって、それが分かったなんて。どうか許してください」そう語る青年の心にも、仏さまを敬う気持ちと、恩に報いる"二つの田ん圃"が耕され始めたと言えるのではないでしょうか。
著者(T)



