交流の広場 微笑苑 第二十二話「母の思い出 ~母の告別式の朝、記す~」
今回の微笑苑のテーマは「母の働く姿と子の成長」です。
- 母は父亡き後、周囲の目を気にしつつ働きに出る。
- 職場を訪れ、清掃の仕事をする母の姿に触れる。
- その体験が心に残り、学ぶ姿勢へと変わっていく。
幼い頃には気づけなかった親の苦労も、ある出来事をきっかけに深く心に刻まれることがあります。母の働く姿を目の当たりにした少年が、その経験を通して自らの生き方を見つめ直していく――そんな静かな成長の物語です。
第二十二話「母の思い出 ~母の告別式の朝、記す~」
父が早く亡くなって、母は務めに出るようになった。当時、日本では、まだ余り、母親が務めに出ることはなかった。だから母は、恥ずかしい思いをしながら、務めに出たと思う。僕は、小さかったので、母が何の仕事をしているか、知らなかった。それが、確か、中学1年の時、大人用の自転車を買ってもらって、京都市内一周を近所の友達5人程でしたりするように成った時の事だった。
その自転車は、勿論、中古だったけれど、僕は、それを大切にして、よく油で磨いては、乗っていた。近所の一番親しい友人に、小学校まで同級だったS君がいた。ある日、僕はS君を誘って、母の勤務先へ遊びに行くことにした。
土曜日だった。前の日、母に言っておいて、2人で出かけた。京都中央電報電話局である。母が、守衛さんに言ってくれていたので、守衛さんは、すぐ、母に伝えてくれた。母に案内されて、僕達は、母の働いている部屋へ入った。
自動の電話交換の大きな機械が、カシャカシャと音を立てていた。僕達の初めて見る部屋だった。母は、紺色の作業服を着て、ズボンを履いていた。母の側に、水の入ったバケツがあって、雑巾が一つ掛けてあった。母は、「交換機には、ホコリが一番困んのや。そやから。私は、ここで毎日、配線の上に付くホコリを拭いたり、掃除したりしてんのや」と、少し恥ずかしそうに、2人に説明してくれた。僕は、少し、顔が赤く成った。
「Uさんの子か?」男の人が聞いた。「はい。中学1年です。・・・今日はいっぺん遊びに来たいと言いまして・・・」母は、自分より歳のずっと若いその男の人に答えていた。「ようできんにゃろ?」「いいえ、そんなことはありません。」母は答えた。
それから、2人を、食堂へ連れて行ってくれた。社員食堂で、僕達は、うどんを食べさせてもらった。そのあと、どのようにして帰ったのか、僕は覚えていない。
S君も、それから後も、この事は、何も言わなかった。今、思い出してみると、この頃からだろうか、僕は勉強をするようになった。
対談のお相手(N・U)



