交流の広場 微笑苑 第十四話「我が子が寺を継ぐ…親の本音を言いましょう」

交流の広場 微笑苑 第十四話「我が子が寺を継ぐ…親の本音を言いましょう」

今回の微笑苑のテーマは「後継ぎと親の本音」です。

  • 世襲を否定しつつも、息子に寺を継いでほしいという親の本音。
  • 自らの過去と矛盾しながらも息子に僧の道を勧めた葛藤。
  • 子の成長を願い、踏み台となることも受け入れる親心。

時代が変わり、世襲に対する見方も厳しくなっています。それでも、わが子に後を継いでほしいという思いは、多くの親に共通する本音ではないでしょうか。理想と現実の間で揺れる住職の心情が、率直に語られます。

第十四話「我が子が寺を継ぐ…親の本音を言いましょう」

息子に後を継いでもらいたい。これは親たる者の本音である。しかし、その本音を言えば、猛反撃に遭いそうな今のご時勢。私も、息子が幼い時は、「おまえが選ぶ仕事なら、俺は何も言わない」と理解のあるような振りをしていた。いや理解があるつもりでいた。だから会議に出ても「世襲化こそは、宗門衰退の元凶である」などと吹きまくっていた。その説を曲げようとは思っていない。

しかし、去年の夏、息子がシブシブながら得度し、頭を丸めてくれた時には、泣きたいほど嬉しかった。「親爺は、言う事とする事が、ぜんぜん違う」そう批判されようとも、うれしかったのだから仕方ない。息子が気が変わらないうちにと、この歴史的事実を檀家に吹聴してまわり、法要の席でも公表した。「よかったですね、これでご安心ですね」と言ってくれる人が多い。しかし、中には、「お寺の子は可哀想ですね。後を継がなければならないなんて」と息子に同情する人もいないわけではない。

いやあ、最も同情しているのは、わたし自身かもしれない。息子の年の頃、私は、どんな事があっても坊さんにだけはなりたくないと思っていた。だから宗立大学の仏教学部の受験料を親からもらうと、願書を出す振りをして、全部パチンコに使ってしまったことがある。そんな事を、まさか息子には言えるはずもない。「得度した以上、道は一すじ、迷わず大学は、宗立をめざせ」と自分とは逆の道を押し付けたのである。そのため、息子が受験勉強をしないことにも目をつむった。ヘタに勉強に目覚めて、他の大学を受験したいなどと言い出したら、こっちの計画はパァになってしまう。

三年ほど前だったか、知人の坊さんが、「息子が東大にパスしましてね。後を継いでくれないんじゃないかと心配なんです」と、複雑な顔で話したことがある。優秀な子を持つことも、これまた、親の悩みとなるらしい。女房なんかは、「そんな悩み、一度でいいからしてみたい」と言うが、瓜の蔓に茄子はならぬ。

かくして、息子はこの春、めでたく宗立大学の仏教学部宗学科に入学が決まった。こうなれば次の作戦は、学寮に入れることである。経済的にも助かるが、厳しく僧風教育をしてくれることが何よりありがたい。

その説得には、私ではなく、私より二つ年上の、私の弟子があたった。「寮に入って、ちゃんとした教育を受けた方がいいぞ。あんたのお父さんは、アゴはいいけど、作法がまるっきしダメだもんな。おいちゃん、弟子として恥ずかしいよ」聞き捨てならないセリフだが、この際、聞き流しにする方が得策のようだ。

子は、親を踏み台にして成長するという。たとえ踏み台でもいい。それで一人前になってくれるなら、世襲化も悪くないと言える日が来るのではないだろうかと、ただただ期待する私なのである。

対談のお相手(N・N)