蓮の実通信

No.001 「中道(ちゅうどう)と」

私は怒りっぽい質(たち)です。すぐに、カーッとなる性分で、 みんなから「瞬間湯沸かし器」みたいだと冷やかされます。
 母は「人を導かなければならないお坊さんが、そんな気の短いことでどうするの」と私をさとします。

 確かにその通り、お釈迦さまは、人間をダメにする三つの毒のうちの一つに「いかりの心」すなわち、むやみに腹を立てることを挙げておられます。
 しかし、今の世の中で、あなたは腹を立てずに生きられますか。
 不安、イライラ、これを我慢していたのでは、ストレスがたまり、ノイローゼになりそうです。
 現代の若者は、無気力、無関心、無責任の三無主義だといわれます。社会になんらの興味を示さず、小さな自分の世界に閉じこもっている若者たちが増えました。彼らは、今の社会に腹を立てる気力さえ失ったのでしょうか。
 お釈迦さまが「むやみに腹を立てるな」とおっしゃるのは「無気力、無関心になれ」というのではありません。

 仏教には「中道」という言葉があります。まん中の道という字を書きます。それは「極端な道に走ってはいけない」という意味です。
 お釈迦さまの弟子にシュローナという人がいました。彼は大金持ちの家に生まれ、大事に大事に育てられました。
 ところが、彼は一念発起してお釈迦さまの弟子となり、誰にも負けないような修行をしていました。その為、無理をしすぎて、足の裏が破れ、血だらけになりました。その時、お釈迦さまが、「シュローナよ、お前の好きな琴の音は、 糸を強く張った時にいい音が出るのだろうか、それとも、ゆるめて張った時にでるのだろうか」とお聞きになりました。

 シュローナは、「強くても、ゆるくてもいけません」と素直に答えたのです。「その通りだ、シュローナよ。人も、また、極端な道をとる限り、決して、いい修行はできないものだよ。なまけず、無理をせず、自分の道を歩んでいくことが仏の道なのだ」とおさとしになりました。

 今の世の中、むやみに腹を立てるか、無関心になるか、という両極端の人が増えています。健康的な腹の立て方、そんな方法を考えてみるのも必要な時代 ではないでしょうか。  (M・N)

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