交流の広場「微笑苑」

No.004 〈お寺の奥さん〉

 「 寺庭婦人 という言葉から、どんなイメージが浮かぶ?」と尋ねたら「お寺の庭掃除のおばさん 」という返事が、女房から返って来た。もう少し品のいい答えを期待していたのに。女という生き物は、現実的なのだろうか。「お寺の嫁さんになったら、奥さん奥さんと呼ばれて結構な身分ですよ」そんな仲人の口車に乗って私と一緒になった彼女の生活実感がそう言わせたのかもしれない。休みらしい休みもない、自由もない。おまけにお寺は、私物じゃない。「これじゃ人手不足を解消するために、お嫁に来たようなものね」と女房は言う。まさにその通りと言えなくはない。
 しかし、それに同意すれば「そんなつもりで結婚したの」と、十何年来の恨みが返って来る。ここは何とかして「寺庭婦人」という立場に付加価値をつけなければ、私の身があやうい。
 そこでお寺の奥さんを意味する言葉を調べてみることにした。すると「梵妻(ぼんさい)」、「大黒(だいこく)」、「坊守(ぼうもり)」という三つの言葉に出食わした。
 「昔、坊さんは結婚できなかったんじゃないの」と横で女房が言う。その詮索はこの際、置いておこう。戒律がどうであれ、歴史的には、女性が寺の中に居た事実が、言葉の中に証明されているのだから。
 しかも「梵妻」の「梵」は「きよらか」という意味、もっと深くは「宇宙の根本真理」という意味さえある。誰が付けたのかは知らないが、素晴らしいネーミングじゃありませんか。坊さんだって男、その胸の内が伝わって来る気がする言葉だ。
 つぎは「大黒」、いわゆる福の神の大黒さまである。大黒さまは天台宗の伝教大使が、比叡山でお祀りしたのがその始まりだと言うが、この神さまは、お寺を守り、生産を司る役目があるという。
 そして「坊守」は、読んで字のごとく、お寺を守る人という意味だ。今でも真宗では、住職の妻たちは「坊守さん」と呼ばれている。
 いずれにしても、女性が寺に入った時、そのパワーが絶大であることは間違いない。だから、寺庭のご婦人たちよ。法のため、寺のため「梵我一如」の精神で、住職に協力していただきたい。ただそう願うばかりなのである。 (J)

ページトップへ