蓮の実通信

No.004 「法事証明書」

 『法事証明書』というのがあるのを知っていますか。
 かくいう私も、この証明書を初めて見た時は、びっくりしました。法事のおつとめが終わって、帰ろうとする時、そこのご主人が、申し訳なさそうに出された紙には、「右の者、××家の法事に出席したことを証明する。○○寺住職」と書いてあ りました。これにサインをし、判子(はんこ)を捺(お)せば、その人のアリバイが成立するという訳です。
「近頃は、お葬式や法事を理由に、会社を休む連中が多くなりましたので、会社も苦肉の策としてこんな 認明書 を作るようになったんですな」とご主人は話します。
 「もちろん、それが本当のことなら問題はないんですが、それを口実に、本人たちはレジャーに出掛けているということが多いらしいんです」とこぼすご主人に、チャッカリした現代の世相を知る思いがしました。

そういえば、いつだったか、喫茶店で、何人かのOLが、楽しそうに旅行のプランを話していた時、「今度は、どこの親戚に死んで貰おうかな」という言葉を口にしていたのを、思い出しました。あれは、偽装のアリバイ工作だったのです。自分の楽しみのために、仏さまやご先祖を、ダシにするなんてとんでもないことですね。そんなことばかりをしていたら、いつかバチが当るぞと思っていたら、こんな 記事を目にしました。
 例によって例のごとく、日本の観光客が大挙して、インドネシアを訪れた時のことです。飲めよ歌えよで、ドンチャン騒ぎをし、両手に抱えきれないほどのお土産を買った一行が、帰国しようと空港に行くと、たくさんのインドネシアの人たちが、空港にいます。「なんだろう」と聞くと、「イスラム教の聖地メッカへの巡礼団だ」とのことです。「フーン」と興味も半減した時です。「巡礼団の人数が多いため、東京行きのジャンボ機は、メッカ行きに変更します」とのアナウンス。お陰で東京行きはDC10という普通機に変わってしまい、日本人客の多くが積み残しにされたそうです。
 「そんないい加減なことがあるか」といくら日本人が抗議しても、年に一度の巡礼を大切にするインドネシアでは通じません。「あなた方は遊び、私たちは信仰」という彼らの信念は強いのです。「だから後進国は困るんだ」と、ボヤいた客も いたそうですが、はたして技術の先進国といわれる日本人が、心の先進国であるかどうかは疑問です。
心も先進国になるためには、「証明書」なんていらない信仰心を持つことも、大切ではないでしょうか。 (M)

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